のりこうのくうねるあそぶー

ギュスターヴ・モロー展

フランス国立ギュスターヴ・モロー美術館所蔵
2005年6月7日ー7月31日
兵庫県立美術館
7/9


「血の色だよ、この赤」
というのが、モローの絵を見た時の第一印象。
彼の描く絵の中の「赤」はみんな、血の色をしているように思う。
連れ曰く「ドラクロワもそうだ」と言っていたので、
モローに限ったことではないのかも知れないが
私美術関係詳しくないので印象的だった。
未完の名作漫画「七つの黄金郷」の中の天才画家ロレンツオ様が
自分の血を滴らせて描いたエピソードを思い起こさせる。


世紀末芸術
印象派自然主義に対して、想像の世界を暗示したという象徴主義
見えるものは信じない。ただ感じるものだけを信じる」とした
モロー(1826−1898)は、その代表的画家とされている。
ただ美への讃歌であった、イタリアルネサンス絵画の影響を受けつつ
19世紀末という時代の暗影さを受け、陰翳さを持つ色彩。享楽的で耽美的な画風。
いかにもフランスサロン文化の粋を、感じさせる。
とはいえ本人「パリのど真ん中に隠れ住んだ行者」ともいわれ、
自作の流出を恐れ、自宅をアールヌーヴォー調の美術館に改装している。
(その創立・維持に遺産数億を相続人は国に放棄させられた)
というあたり、かなり気難しいところもあったんだろうな。(ま、普通に)
そのパリの美術館に行ったことがあるという連れ「濃い空気だった」とか言ってたが、
写真を見る限り、モローの霊がよくも残っていそうな気がする。


有名なサロメの絵
妖艶な舞いを踊り、その報酬に予言者ヨハネの首を所望したサロメ
ヨハネの殉教という宗教的な意味に留まらず、オリエント文化への憧れや
背徳性などどうにも西洋人のインスピレーションを掻きたてるらしい。
モローも例に漏れず描いているが、ヨハネの首が空中に浮かび上がる
出現』という絵は、独創的で異彩を放つ。非常に物語的でもあり。
多方面に影響を与えたのも頷ける。知っていたけど、生で見るのは初めてで、
なんとも凄まじいというか、禍々しくも美しい
その油彩は、後年に白線で宮廷の装飾が描き加えられたもので、
浮かぶ装飾が宮廷の奥行きをもたせて、それだけでもとても美しい。
その他サロメを描いた水彩とかスケッチを沢山見ることができる。


神話や聖書など古典的物語の世界
を主題にモローは描いた。それを自称「歴史画家」というらしい。
ある主題を長い年月を通して描き続け、次第に成熟させていくモローの画業
生涯をかけた主題は、サロメに留まらず、ギリシャローマ神話
牡牛や白鳥姿ののゼウス神に誘惑されるエウロペレダトロイアの美女ヘレネ
英雄オデュッセウス、オイデュプス、ヘラクレス
美神としてアポロ、ミューズ、使える詩人サフォー、オルフェウス
異形、魔性のセイレーン、スフィンクスユニコーン、キマイラ。
聖書世界の聖セバスティアヌスほか、
本当に沢山の作品(習作)をしつこく丹念に描いている
それらの物語は西洋人がよく好み、素養として親しみのあるものなのだろうが、
詳しくない私としては美しい絵と共に、解説や図録で知るだけでも有意義だった。


以下気に入った絵、私的見所
全ての装飾・衣装の絢爛さ!
・『トロイアの城壁に立つヘレネ
トロイ戦争(映画観損ねた、残念)を引き起こした傾国の美女・顔なしのヘレネ
悲哀を誘うし、『構想画』、背景のの青緑に浮かぶヘレネも亡霊化してて、象徴的。
・『オイディプススフィンクス
ライオンの体、蛇の尾、鷲の翼を持ち、謎を掛けては解けない旅人を殺すスヒィンクスを女性体で描き、オイディプスと間近に対峙させる構図。(謎解きには勝ったが宿命には勝てなかったオイディプスの人間的苦悩顔とスフィンクスの全てを見通した顔)緊迫感。
・『インドの詩人
ムガール朝の細密画を元に、馬上の王子と女羊飼いの出会い。その縁取りはペルシャ模様で、、。(で、まっ東洋的雰囲気が出てればいいかっ的フランス人合理性、笑)
・『一角獣
純潔の乙女にしか触れさせないという一角獣と乙女らの絵。これが一番、血の色をした赤で禍々しく感じる、私には。
・『サロメ』『出現』『首切り人の習作』他習作はことに見応えあり。模様きれい〜。
・『人類の生
アダム(金の時代)オルフェウス(銀の時代)カイン(鉄の時代)の三者の朝・昼・夕べ、計9枚の頂点に「贖い主キリスト」を描いた作品が意味深である。


兵庫県立美術館
兵庫県安藤忠夫氏の回し者かと思われるほど、公共施設に彼のデザイン建築を使いたがる。この建物もそうである。コンクリート打ちっ放しの壁、無駄な空間、などなど味気なく不便だと、県民にはとても評判がよろしくないと、誰か注意して欲しい。、
まそれはさておき、場所の不便さもあって、雨だったし、客が少ないのがよかった。
京都や大阪の美術館は人が多すぎて、ささっととしか美術展を味わえない。
それに今回、非常に展示方法が良くて解りやすく見やすかった。
おかげで、モローの毒気に当たりすぎて、連れも私もどっぷり疲れてしまった。
7−9日は七夕企画で、カップルにつき一人分無料というサービス
(知らずに2枚買ったカップルには払い戻しまでしてくれる)が、素晴らしかった。
音楽会などいい催しなどもしているようなので、
宣伝よくしてこれからもよい企画を期待したい。