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号泣する準備はできていた

号泣する準備はできていた (新潮文庫)

号泣する準備はできていた (新潮文庫)

 江國氏の直木賞受賞作の、ようやくの文庫化ですね、待ってました!(当方文庫本派です。重い本苦手…)
 ……でも。申し訳ないですが…「号泣する」ほどの短編集でもなくてほろ切ないどこか可笑しさも含んだ話の12篇も詰まった短編集でした。とはいえ、作者のこれまでの集大成的な技が込められた、力作というか捏ねられた作品だなぁと感じました。小説の手法として、巧い。さずがに第一線でずっと書いてこられた方だなぁと、初期作品の「きらきらひかる」の頃よりはずっと、うん捏ねられていますよね、年月と共に…。一話一話解説するほどもないので書きませんが。
 解説で、ここで彼女の書かれた女性について
だれひとりとして上手くたちまわろうとしない。保険をかけておく小狡さもない。ころんですりむいた膝に手当をしながら、また同じところにこぶをつくってしまうかもしれなくても、本能に忠実に生きようとする。本能を信じる力がある。そしてそう言う生き方につきものの孤独を、真正面から引き受けている
 と、彼女の書く女は「引き受ける『女』」だとありました。その高潔な女たちの、熱に寄り添われながら、生きる力が蘇生する、と。
 

 うーん、言い得ている気もしますが、たいていの人はみんな、そんなに上手に人生立ち回れるものでもないし、えいえいたんたんと起こることを受けて流しているのじゃないでしょうか。だからこそ登場人物には遠いながらも、共感が持てるし、この距離感がこの本ではもどかしくも、巧さになっている気がします
 

 江國氏当人のあとがきには、「かってあった物たちと、そのあともあり続けなければならない物たちの、短編集」だと締めくくられてありました。
 つまり、何かを喪失する人(女)たちの物語だったわけです。それを見つめる深い眼差しを感じつつ、うむ、…巧かった、としか言えない、私でした。