のりこうのくうねるあそぶー

ひな菊の人生

ひな菊の人生 (幻冬舎文庫)

ひな菊の人生 (幻冬舎文庫)

 「お、奈良美智
 表紙を見て、husが一番に言いました。…そう、そんなに有名な方だったんだー!? と改めて知りました訳ですが、ばななの本はいつもいいデザインです。いいというか最先端。
 そしてひさびさに、ばななの新刊読みました。読んだのはGWだったので、かなり忘れてます…。すっと読めて、物語自体はそんなに残ってないのですが、随所に彼女らしいしっとりした文体が心地よかったです。(下に…)
 幼い頃一緒に過ごしたひな菊とダリア。その後の人生二度と交わることのなかった二人だけれど、その想い出がずっと胸に生きていて、今いろんな出会いや別れを経験しながら25歳のひな菊は生きていく――。
 まあイラストレータ奈良美智とのコラボで生まれた夢のような話、とある通りでありました。



以下、抜粋――

  • 笛の音は、私の肉声よりもよっぽど肉体的な気がした。音と心がひとつになるために楽器はあるのだと思った。
  • 孤独が月の光と同じ匂いをもって、私の全身をひたしていた。

 くつろぐときを楽しみにしている人たちが、長い夜のはじめに今夜最初の一杯を飲むべく乾杯をしている時刻…世界中どこへ行っても見ることができるなんていうこともない風景が、あの、港の明かりのところまで行けば繰り広げられている、と私は思った。……と驚くほど、見知らぬ人々の日々の営みを愛おしく思った。

  • 思い出はいつも独特の暖かい光に包まれている。私があの世まで持っていけるのは、この肉体でもまして貯金でもなく、こういう暖かい固まりだけだと思う。
  • どんな平和な風景の裏にも、あれと同じような脆さがひそんでいて、私だちが美しい姿形で無造作に笑っていられることに、神と呼ばれる要素が介在していないほうがよっぽど不自然だという感じだ。
  • 一回でも会うと、そのときにひとつ思い出というか、空間ができるでしょう。それはずっと生きている空間で、会わなければこの世に全くなかったもので、全く人間どうしが無から作ったものだから。……天とか運命とかは、…彼を俺たちから奪うことはできても、あの楽しかった時間を奪うことは永遠にできないから、俺たちの勝ちだと思うんだ。勝ち負けではないんだけど。