のりこうのくうねるあそぶー

ゆれる

原案・脚本・監督/西川美和


7月27日シネリーブル梅田にて



 オダギリジョー主演で話題になっていた映画ですが。ええ、もちろん彼も大目当てでしたけれど、こういう映画大好きですから、行く予定にはしていましたでしょう。
 しかし、この二人以外の配役はちょっと考えられないかも。


 え…なにから言ってよいのやら。コレ書いているのは、観てから1ヶ月以上たってます。
 なによりも印象に残っているのは、ラストシーン



 オダギリが道路の向こう側から、走り寄って叫びます。
にいちゃんーっ!
 それにようやく気がついた香川氏が顔を上げて、ふと表情を緩ませます。



エンドロール……





 私…(T_T)。←ダァーッ
 いろいろ込み上げてまいりました。
 うっうまい…! このつくりというか脚本、やはり、監督…! …とうなりながらかすむエンドロールを眺めました。


 途中も随所に、コ憎いほどの手腕物語の巧妙さ登場人物のサガなり…を、見せてくれていたのですが。
 とあれ、ストーリー。

  • ストーリー

 母の一周忌に帰省してくる(オダギリ)。田舎の空気と頑固な親父(伊武雅刀)ともに折り合いの悪い弟だけど、実直で温厚な香川照之氏)がいつも温かく気遣っていた。実家は父と兄がガソリンスタンドを経営しており、そこに兄弟の幼馴染みで弟の元彼女(真木よう子)も働いていた。兄は彼女を気に入っている模様。法事の帰りに車で彼女を送る弟。
 昔家族で遊びに行ったという蓮見渓谷に三人で出かけることになる。写真家の弟は草花の写真を撮るのに夢中になっていたが、ふと見ると、兄と彼女が吊り橋の上で諍いをおこしていて、彼女が橋から落ちてしまった。
 それは事故だと初めは決着がついたが、ある日兄は警察で自分が突き落としたと告白してしまう。兄を助けるべく、東京で弁護士をしている父の兄(新井浩文)を頼ったり拘置所に通ったり奔走する弟。
 1回2回3回と裁判が進むうちに、兄弟の気持ちがすれ違い、傷つけあっていく。かっての優しい兄を取り戻したいと、初めは見ていないと証言した弟だが、実は見ていたと証言。兄の実刑が決定。
 事実はどうだったのか
 兄が刑期を終える前日――昔家族で行った蓮見渓谷でその時撮った古い8ミリビデオを見つけて、見入る弟。7年前の吊り橋での事件の光景も浮かんできます。
 「誰の目にも明らかだ。最後まで僕が奪い、兄が奪われた。けれど、すべては頼りなく、はかなく流れる中でただ一つ、危うくも確かに掛かっていたか細い架け橋の板を踏み外してしまったのは、僕だったんだ。腐った板はよみがえり、朽ちた欄干は持ちこたえることがあるだろうか。あの橋はまだ架かっているだろうか
 明け方、弟は兄の元に車を走らせた。


……とまあ要は、兄弟愛憎劇。


  • 兄弟

 上記の書いた以外にもいろいろ名場面はあるのですが、パンフに書かれている、弟の情事の帰りを、洗濯物をたたみながら迎える兄のシーンも、ぞくりといたします。
 そんな父親の面倒も見ながら独身で、嫌な客にも頭を下げ黙々地味な仕事をし続ける兄にとって、弟は東京で活躍しているようであり昔からきっと要領もよくて、羨ましくも誇りだったのでしょう。ゆえに全てを知らぬふりで、たんたんとずっとやり過ごしてきた兄の何をも押さえこんだ笑顔。女の死で、あぶり出されていく狂気の破片…。たんたんと鬼気迫っていて、香川さん、本当に達者でした…!ほんとに「お兄ちゃん」でした。 
 

 しかし女なら、えーフツーの女ならばやはりええジョーでしょう?! (笑)。
 あの送りがてらの車中のジョー!女が否とは言えないセリフでちゃっかりとするする女の部屋に入り込むジョー!することはちゃんとするジョー!しれーと次の日には普通に会って、女を邪険にしてしまう…ジョー!?そんな、どんなにイヤな奴やねん!男を、あーも魅力的に演じて、許せちゃうのだから、ジョー!!やはり弟。放蕩息子。(…オダギリについての魅力は別所で叫んだのであらかた満足です。それはもう〜あの色香っ!!についてでしたが)
 あ、最後の長台詞もよかったです。
 

 父親たちの兄弟関係も味出ていました。伊武さんが田舎の年老いた偏屈な親父役をよくもあーまでよく汚く演じられてました(涙。若い頃好きでした)し、スマートな新井さんも兄弟の葛藤を抱えながら同様な甥をさとす視線で、真摯に事件に付き合う様子は納得がいきました。この兄弟もまたこの映画の重要なキーパーソンでした。
 

  • この監督は、

 前作では兄妹愛を描いたそうですが、今回は兄弟愛
 きりきりと、そこまでもやるのか?という心の奥底まで追い詰めて、傷つけ合わせて、関係を壊しく手法。本当の家族愛や兄弟愛を取り戻すのは、一度、全てを壊さなくてはならないという、監督の再生への思いが貫かれている…と某批評家が書かれている通りかと思います。
 

 すべてはラストの、「にいちゃんーっ!」弟の叫びと、見あげる兄の笑顔につきます。物語の何の解決にもなっていないのですが。あとはどうとでも解釈してくれ、丸投げな所でもあるのですが。押しつけがましくないそんな所が、胸を締め付けました。 
 うちの弟が「お兄ちゃん」と兄を呼ぶ声なども思い出しながら、この兄弟の普遍的物語に、感じ入りました。

  • パンフレット

 カラー写真がポストカードになってまして、しかもそんないい写真でもなくて(平謝!)使えなくて困るんですが…(笑)。
 本の方は小さくて薄くて2色刷りでお金かかってなさそうで(失礼!)でも手に取って読みやすくて〜よかったです。内容も、寄稿者の文がよくて、監督の言葉も、香川氏やオダギリ氏のインタビューもうまくまとまっていて、感銘しました。
 中表紙のことばが、兄弟物語のすべてでした。以下、全抜粋。



信じること、信じられること。
裏切ること、裏切られること。
奪うこと、奪われること。
許すこと、許されること。
弟であること、兄であること。






以上長々書いても…なんで、感想終わります。全くまとまりない文章で失礼しました…。