のりこうのくうねるあそぶー

メゾン・ド・ヒミコ

10/28 ガーデンシネマ梅田 にて
監督:犬童一心 脚本:渡辺あや プロデューサー:久保田修小川真司


前作「ジョゼと虎と魚たち
 田辺聖子の原作小説が良くて、特にあの短編集文庫はいい作品揃い♪で、あまりの妙筆ぶりに惚れ惚れ読み込んだものでした。(特に「恋の棺」はっ!)
 その素晴らしい原作を少しも損なうことなく、ちょっとウエットな世界を、軽やかに明るく現代的ラブストーリーに書き換えた脚本の素晴らしさに感嘆したものです。身障者のジョゼと健常な若い男性妻夫木君(韓国ですごい人気なんですってね)の、出会いと別れの恋愛映画でした。
 恋は女を強くする。恋の経験が、強く生きていける力になる。ジョゼの、そんな女のタフさに、共感できるしかっこよく、私たち女性にとっては気持ちのいい映画でした。男性にはちと、情けなさが残るのでしょうが、そんな所も今風な恋愛の甘さと苦さをよく描き出していたと思います。映像とか構成とかも、淡々とした日常生活の中の物語がよくて、やっぱり監督の力も大きいのでしょうね。


ストーリー
 幼い頃に生き別れたゲイの父親と、その恋人と、母親を亡くした孤独な娘の物語です。
 ある日、若く美しい男性が訪ねてきて、父親の余命の短さを告げ、経営するホームの手伝いを頼みます。男は父親の恋人で、ゲイの為の老人ホームでした。初めは嫌悪しながらも、その世界や人達とつき合ううちに、うち解けていきます。しかし、否定的な世間の人達や、ホーム経営上の問題や、惹かれ合いながらも肉体的に結ばれる事の出来ない父親の恋人との恋、そしてどうしても許せない父親との葛藤。立ちはだかる数々の現実(壁)に、あがくことしかできないけれど、不器用ながらも向き合って生きていく…って物語でしょうか。


「優しい」犬童一心監督
 彼はマイノリティーな人達を取りあげながら、普通と変わらない生活、恋愛を描くことで、声高に問題提起をするでなく、それが、いろんな世界が壁があることが現実世界なんだと、淡々とさりげなく物語りますよね。
「優しい人だなぁ、この人」と思いました。
 が反面それは、パンフの評論家の書く通り残酷なことかもしれません。
主体性(保証された居場所)を失った孤独な主人公が、対抗する異者や、第一次欲求に忠実であることの、冷徹とも滑稽とも切実ともいえる現実感の中で、漠たる不安と孤立を覚えつつ生きている。
 映画の救いは、唐突ともいえる形でファンタジー的世界に飛翔することでしかない。それは、確かに残酷で意地が悪いと言えますねぇ。


現実社会の壁
確かに世の中は厳しくもあるけれど、ただファンタジー的な世界も無い訳じゃありません。恋愛は幸せだし、肉体的に歌い踊ることは楽しい事ですもの! クラブやイベントは現世界に幾数幾夜もあって、それが一瞬で消える夢世界であっても、生きる力になり得るはず。
 世界や生きることは、厳しく優しく、美しく醜い。そうしていろんなことが混在して共在して成り立っている。
 映画は、「壁」が無くなることはないけれども、乗り越えるようとする行為はたとえ失敗しようとも、無価値なことではない。と言ってます。
 いろんな違う世界や人たちを、分かろうと努力することは必要だってことでしょう?壁は無くなりはしないのだけど、違う価値や生き方を認めあえる(無視しあっているのかもしれないけれど、せめて迫害しない)社会や人が増えていけばいいなぁと、願います。だから、壁から落ちても、笑わないでね。誰もが傷ついたり傷つけたりして生きているのだから、誰かや自分や何かを憎んだりむやみに否定したりしないでね…。と私は願いたい。


説得力のあるキャスティング
 もちろん役者がはまらなきゃ、映画の良さは成り立ちません!逆に言えば役者さえよかったら拙い映画でもいける!のですが。
 どの配役も、役者さん達も良かった! 役にはまっていたしみんな魅力的でした!!
 特に素晴らしかったのは卑弥呼役の田中泯でしょう。
伝統あるゲイバーを引き継ぎ、老人ホームを作り、威厳を保ちながら死にゆく、カリスマ的ゲイの卑弥呼、田中氏の存在感がずしりと、物語を引き締め、説得させてくれます。一挙手一投足目を惹かれずにはいられなかった! あの派手〜な衣装にも負けず、立ち居振る舞いの荘厳だったこと! この方(この演技、存在感)でなければ映画は、嘘話かコメディーになっていたでしょう。
 そして、敵対、反発していた少年をも誑し込んだオダギリジョーの色香!
映画館が暗くて隣に誰もいなくて本当によかったです、私はひーひーのけぞりながら、きっと人前に晒せないような顔して彼を舐め眺めまわしておりました(笑)。白いフリル付きのシャツに白いパンツ姿の素晴らしく似合うこと! あの撫でたくなるような細面! 震い付きたくなるような細腰! うす暗く漂う妖しさ気怠さ美しさ!!(シタバタ) めちゃくちゃ好みっ……。(新撰組から非常に気になってたんですが。) 
 眼福〜。やっぱり映画は美人が出て欲しいっす。もうそれだけでも満腹な、映画だったといえます、正直。でも内容もいい〜!
 そうそう、衣装もそれぞれみんな素晴らしく合ってて、よかったです〜!


ドヴォルザーク
 なのに、最後に流れた伴奏のピアノの音の美しさったらどうよ?! 
あれで、涙腺やられました。私、美音に弱いんです。特に映画の音楽にはとても泣かされてしまいます。ぶっちゃけ役者が良くなくても音楽(&映像)が良ければ許せます。
 途中のBGMとか、使われる音楽、良いな〜と思ってたんですが細野晴臣ですものね。私は『モーターサイクルダイアリーズ』の南米的ギターの音をちょっと思い出したのですが?、そこは民族音楽研究家?の細野さんらしいかなと思いました。
 それで最後に流れたピアノ伴奏で歌われる歌曲。ドヴォルザークですよ!
偶然にも。秋に相応しい私の10月強化課題?にしてたんで、かなり聴いていたし大好きな作曲家です。交響曲は有名ですよね〜。「新世界」を知らないで日本の学校で過ごすのはあり得ないんじゃないでしょうか?って位。美しく引っぱるメロディーに秋はめろめろ酔いたい〜と。
 この歌曲は知らなかったけど、日本語歌詞がどうかは別にして(悪くはないと)、やはり美しい〜んです。そしてむつけき壮年のカラフルな服を着たゲイの男性達が、真っ暗な海辺の夜のテラスで合唱するの、難しいと思うんだけど、唐突な感じもするけど、曲の良さもあり映画の上手さもあり、そのシーンはとても心に残りました。
 音楽の力は非常に大きいです。映画では本当に大事ですよね。


 いろいろまだまだ書き尽きないけど、良い映画でした……。映画館で観ることができて本当に幸せ〜。
 犬童氏の「タッチ」観に行くべきか、悩みます、マジ。時間ないですけどね。