のりこうのくうねるあそぶー

.METライブビューイング トロイヤの人々

sawanonn2013-01-26


作曲・台本:エクトル・ベルリオーズ  全5幕(全2部)・フランス語
初演:1863年11月パリ(2幕のみ)


指揮:ファビオ・ルイージ 演出:フランチェスカ・ザンベッロ
出演:デボラ・ヴォイト(カサンドラ)、スーザン・グラハム(ディドー)、ブライアン・イーメル(アエネアス)、ドゥウェイン・クロフト(コロエブス)、クワンチュル・ユン(ナルバル)
上映期間 :2013年1月26日(土)〜2月1日(金) . 上映時間(予定) :5時間30分(休憩2回)[ MET上演日 2013年1月5日 ]


あまりにも長大(時間&編成が)にして、作曲家自身が生前のうちには、全曲上演はなく、初演は2部のみ。パリの聴衆からは不評。死後21年後にドイツ語版での全曲上演はあるが、フランス語版による全曲上演は、死後100年の1967年となる。以後もそう上演があるようではなく、このメトロポリタン(MET)でのオペラ上演は貴重な機会であろう。


このMET世界ライブビューイングはずっと以前から始まっていたようだが、私には今回のこれが初見にして、幕間には舞台裏からのインタビューにより、舞台や出演者らの実像をうかがうことが出来て、これまた貴重で大変おもしろい作りになっている。
特に今回の出演者たちは、舞台降りてすぐだというのに、よく応えること!しゃべること!! 驚くばかりで、インタビュアーの質問もだが、あの打てば響くというか、あのテンション高いノリというか、さずがアメリカンだと、舌を巻かずにいられない。


で。
「フランス語のオペラは普段やらないのよ〜。ベルリオーズくらい」と普段はドイツ語のオペラがレパートリーらしい?出演者。なるほど、フランス音楽というよりはドイツ的というか、人気や評価もドイツよりであるのがなるほどと頷ける、重厚な音楽であり、
「台本が作曲家と同じだから、歌詞が無理なく歌いやすい」云々と応えていたこともあるが、当然何語かも聞き取れない耳な割に、歌が自然に聞こえて、数々の美しいアリアに聞き惚れた。
しかし何よりもこの作曲が1850年代にて、この音楽の先駆性に一番驚かざるを得ない。・・・さすが1世紀を経ての初全曲上演となるわけだ。
というかもし、ワーグナーのようにベルリオーズにもどこぞの王様なパトロンがついていたら、この長大なオペラももっと早く光が当たっていたのかもしれないが、この作曲家の生前にとっては、お気の毒なことであった。


さて舞台は、1部が「トロイヤの陥落」、2部が「カルタゴのトロイヤ人」という連作となっている。
1部(2幕)は王女であり予言者であるヒロイン、カサンドラを通して、「トロイの木馬」で有名なギリシャ軍によるトロイヤの滅亡が描かれ、2部(3幕)は、北アフリカにてカルタゴ建国の女王ディドーと、1部のトロイヤより逃れてきた英雄アエネアスとの悲恋物語である。


正直に言うと、オペラらしい…どうでもいい事柄をぐるぐる歌って事がなかなか前に進まない様に、はじめは時々意識が遠くなることもあったが(謝)。
物語が進むとぐっと引き寄せられ、その物語の巧妙さ……連鎖による悲劇の必然性、その構成力に、これまた上手い音楽、歌、合唱、演奏、演出が、何重にも重なってきて、圧巻である。生で聴けばさぞや…と、納得する映像の中の客席の興奮や、盛り上がりも伝わってきて、かなり同調した。
最後がまた……唖然というか、「そうきたか!?」的な、私的には衝撃ともいえる驚きであった。
その物語は、悲劇が生む憎しみの歴史的な連鎖の元を描いており、現代的には笑止な面もあるのだが、なるほどこれが、未だまた先にも続くであろう(一部の人間には)普遍的な負の感情であろう。望むらくは、断ち切って平和に生きたいものである。っていうか、それこそがカタルシスなのか。


音楽的には「全く退屈しなかった」とは夫談で、まぁすごかった!(笑)
ただ家でCDで聴けるものではなく、こうしてオペラで観て聴かないと、その良さはわからないと思うし、また長大なだけに何度も聴けるものではないかと思うが、しかし今回は機会がもてて、良かったと思う。


さて、METライブビューイング2012−13の今シーズン上映の12作品中、すでに第7作目にあたる、ベルリオーズ≪トロイヤの人々≫であったが、以後の私たち期待の作品は、第10作ワーグナー≪パルシファル≫4月6日〜12日、
第12作ヘンデルジュリアス・シーザー≫5月18日〜5月24日
両者とも新演出ということで現代的舞台設定で行われるようだ。
すでに終わった中では、トマス・アデス≪テンペスト≫とヴェルディ≪仮面舞踏会≫が観たかった。来シーズン以降の再演があることを期待する。